第二章 「バリュースター飛ぶ」

02

「はぁ、エリさんは異世界の方だったんですか。」
「うん、ボクたちはこの世界の技術を持ち帰るのがお仕事なんだよ。」
「するとぼくは...」
「大丈夫、ウィン君は誰にも渡さないよぉ」
なぜか赤くなるウィン。
「ヘンな意味じゃなくてね。」
ちょっとがっかりするウィン。もちろんエリは全然気づかないが...。
「ん〜、ウィン君、どっかにシャワーないかな?」
「シャワーですか?すみませんここには現在使用可能なシャワールームはありません。」
迎えがいつ来るか分からないので、とりあえず汗を流したかったのだが仕方がない。
「あ、でも着替えでしたらそこのコンテナ内が使用可能ですよ。」
白いコンテナの扉の奥には整備用のつなぎやらが雑然とおかれていた。
「やった〜!ラッキ〜とりあえず男物でもなんでもいいや!」
ウィンの目の前でいきなりパイロットスーツを脱ぎ出すエリ。
この世界での解説 この世界における解説
現実世界での解説 現実世界における解説


その表情は変わらないが、ウィンのCPUはこの事態に対処する事ができずオーバーフローを起こしかけていた。

「---**::--対処不能。成人女性が脱衣を始めた場合にとるべき行動::::データがありません。:::--システムがビジーになっています--」

ふと気がつくとエリがこっちを見ている。

「ウィン君、眼がえっち〜」
「ご、ご、ご、ごめんなさい!」

いきなり服を脱ぎだしたエリが悪いのだが、とりあえずウィンは走ってその場を離れた。

(忘れてたよぉ〜、ウィン君も一応男の子だったんだ〜)

いつもはナオやチャムしかいないので他人の目線を気にもとめていなかったのだ。
エリがちょっと反省している頃コンテナの後ろでは純情すぎる少年が思考をループさせていた。

(はぅ〜、エリさんに嫌われたかな〜、ユーザーには礼儀正しく接しなければならないのに、僕はなんてことを・・・)

CPU
現実世界での解説中央演算装置。コンピュータの中枢機能を受け持つ部分で、プログラム命令の実行や、メモリ・周辺装置とのデータ転送を行う。Intel製のPentiumIIIやCeleron、AMD製のK-6IIIなどが有名。
この世界での解説ちなみにウィンのCPUはNEC製Z80-Xというものらしい。

オーバーフロー
現実世界での解説計算中に桁があふれ、計算不能に陥ること

システムがビジー..
現実世界での解説一度にたくさんのアプリケーションを立ち上げ、作業を行うと、メモリが足りなくなり、処理が実行できなくなってこのようなメッセージが現れることがある。動作が不安定になるので、アプリケーションを閉じ、メモリを解放するか、Windowsを再起動する必要がある。

機銃の乱射音と、それに続き着弾音が土砂降りの雨音のようにコクピット内に響く。
装甲されているとはいえ、運動性の低い輸送機ではこのあたりが限界のようだ。

「これまでね。チャム!機体を自爆させるよ!それにまぎれてラヴィで脱出、いいわね。」
「了解です。あとは地上を進みましょう。」
「これじゃ助けにきたんだか、遭難しにきたんだかわからんな...」

至近距離でミサイルが爆発、コクピットが衝撃で揺れる。

「いよいよヤバイな、これは...」

 

機体をゆっくり降下させてオートパイロットに設定。地震のように揺れる機体の中、二人は格納庫へ向かう。
すでにラヴィはハイバネーションで待機中だったので、コクピットに乗り込むと同時に発進体制に入る。
「後部ハッチを開放、ラヴィ固定解除。私が先行してジャミングをかけます。敵センサーがハングアップしている間に脱出を!」


「了解!さぁ派手に行くよ!」
チャムのラヴィ03が発進、直後にジャミングを開始。続いてナオのラヴィ02が空中に躍りでる。

ほぼ同時に自爆システムが作動、派手に火球を広げ部品を撒き散らしながら巨大な輸送機が落下していく。
二機のラヴィもその爆発に巻き込まれたようにみえた。
バグ達は敵対勢力の壊滅を確認するべく輸送機の墜落現場へ群がっていった。


「えっと、ウィン君?」

遠慮がちに声をかけるエリ。

「な、なんでしょうエリさん!」

コンテナの後ろでイケナイ妄想に胸を膨らませていたウィンは必要以上に大きな声で答える。

(ど、どうしよう変なロボットだと思われたかなぁ)

エリはどぎまぎしているウィンに近づくと、彼の肩を掴みゆっくりと床へ押し倒した。
(はわわ〜!エリ、エリさん、なにおぉ〜、ダメです!まずいです!キケンですぅ!!)
ものすごいパニックに陥るウィンに対してエリは冷静だった。

「静かにして、何か近づいてくる」
「え?」

基地の外周センサー異状無し、レーダーも何も捉えてはいなかった。

「ですが警戒システムには何も・・・」
「ボクにはわかるの、何て言うかなその手の勘が生まれつき鋭いの。」
オートパイロット
現実世界での解説インターネットのWebサーフィンなどを自動的に行うこと。
VALUESTAR NXとLaVie NXにプリインストールされているインターネットアクセスマネージャを使うと、指定したホームページを巡回して、ハードディスクにデータが記録されるので、好きなときにゆっくり見ることができる。

ハイバネーション
現実世界での解説主にノートパソコンなどに搭載されている機能で、現在の作業状況をハードディスクに書き出してから完全に電源を切れる状態にする機能。再度電源を入れたときにはその状態を読み出し、元の状態に復帰させる。スリープ状態からの復帰よりは時間がかかるが、バッテリ切れなどで電力が全く得られない状態に陥っても、元の状態に復帰させることができる。

ハングアップ

この世界での解説チャムのラヴィに搭載されているジャミング兵器はダミー物質を散布させることでセンサーをくらますとともに、ミクロン単位のマイクロロボットがシステムに侵入しハングアップさせる。しかし、これを使いこなせるのはチャムのみ。
現実世界での解説OSやアプリケーションが何らかのエラーを起こし、パソコンのシステムが停止してしまうこと。マウスポインタが全く動かなくなり、キーボードからの入力も受け付けないので、リセットするしかないことが多い。

エリの言うとおりなら敵はこちらのシステムにハッキングし、欺瞞情報を流していることになる。
まさかこの基地のシステムを乗っ取ることができるバグがいるとも思えなかった。

「とにかく内部へ」
ウィンが体を起こしたその時、
「これは!」

今度はウィンにも感知できた。
何か来る。
とっさにエリはウィンの小さな体を守るように抱きしめる。
轟音とともに黒い影が目の前に現れた。
しかし、このエンジン音、この鮮やかな青い機体は...!


「チャム!ナオちゃん!」
一瞬驚いたエリだったが、すぐに仲間の機体だとわかり、声を上げる。
ラヴィの上半身が持ち上がるように装甲が開放され、その奥からナオが姿をみせる。
続いてもう一機もコクピットを開き、チャムも顔をのぞかせる。

「二人とも来てくれたんだぁ〜」

エリが喜びの声をあげる。しかし二人の視線は冷ややかだった。

「エリ、いくらかわいいからって小学生はマズイだろ、やっぱ。」
「エリさん...フケツです。」

そう言われてみればエリの体勢は...。

「ちっがっ〜う!」
真っ赤になって反論するエリ。何だかうつむいて照れているウィン。<
「ちょ、ちょっとぉ〜ウィン君もなんとかいってよ〜二人ともそんなんじゃないんだからね!」
「わたしらさんざん苦労してここまでくれば、なぁ。」
「エリさん、着替えてるし...。」
「ちっがぁぁぁぁぁぁぁぁぁう!」
ハッキング
この世界での解説システムに侵入し、情報を引き出したり書き換えたりすること。この場合は、何者かが何らかの手段により、警戒システムに「自分は味方だから安心しろ」という嘘の情報を与えている。

現実世界での解説現在ではコンピュータを利用した不正なアクセスのことをさす。その行為を行う人をハッカーと呼ぶが、元々はコンピュータシステムに深く精通し、システムの限界を越えるようなプログラムを記述する人を敬意をこめてハッカーと呼んだ。違法な行為をクラック(後述)またはクラッキングと呼び、ハッキングと区別する場合もある